研究概要 |
核内受容体の一つであるHNF-4α(hepatocyte nucler factor-4α)にはP1およびP2プロモーター由来のアイソフォーム(P1, P2-HNF-4α)がある。これらアイソフォームを認識する抗体を用いて、卵巣癌と胃癌におけるHNF-4αの発現と粘液形質との関連を検討した。 正常胃粘膜にはP2-HNF-4αが発現し、腸粘膜にはP1およびP2-HNF-4αが発現した。腸上皮化生胃粘膜上皮には両アイソフォームが発現した。粘液形質からみると胃癌には胃型と腸型があり、腸型は両アイソフォームを発現するが、胃型にはP1-HNF-4αの発現がみられないことが判明した(Takano et al,投稿中)。 正常の卵巣ではHNF-4αを発現せず、通常の型の卵巣癌も発現しないが、粘液産生性卵巣癌にはHNF-4αが発現した。その粘液形質は胃癌と共通性があることも明らかになった。これは細胞診にも応用可能な点で有意義である(Sugai et al, Pathol Int 2008)。 さらに、すべての核内受容体抗体を用いてヒト肝・膵組織を検討した。肝細胞では14種類、胆管細胞では13種類、Kupffer細胞、星細胞および内皮細胞では6種類の核内受容体が発現した。またヒト膵組織において、膵腺房細胞では17種類、内皮細胞では13種類、α細胞では20種類、β細胞では18種類の核内受容体蛋白が発現した。HNF4αの遺伝子変異は若年型糖尿病(MODY1)の原因であることから、膵ランゲルハンス島ではHNF4αがβ細胞に発現しているのではないかと推測されていたが、α細胞のみにP2-HNF-4αの発現を認めた。以上のことから、HNF4αの糖代謝への関与について新たな知見が示された(Takegoshi et al, Pathol Int 2009)。
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