HMGB1は核内に存在する非ヒストン系DNA結合蛋白であり、転写調節や抗アポトーシス作用を有するとともに、壊死細胞あるいは活性化マクロファージや樹状細胞から放出・分泌されてサイトカイン様物質として作用し、 RAGE・TLR2・TLR4などを介し炎症反応を惹起することも報告されている。研究者らは前年度の浸潤性乳癌におけるHMBG1発現のデータをもとに、日本医科大学付属病院で2005年から2007年の間に切除された二百例の乳癌症例を対象として免疫組織化学的な検討を行ったところ、約85%の症例において癌細胞の核にHMGB1発現が確認され、さらに全体の約40%の症例においては癌細胞の細胞質内にも発現が見られた。しかしながら、前年度の大腸癌および乳癌で得ていた予備データからの予想とは異なり、これらの細胞質内発現と以下のパラメーターとの間には、相関を見出すことができなかった。1.乳癌の核グレード、2.乳癌の浸潤径、3.乳癌の組織型、4.乳癌のKi-67陽性率(増殖能)。さらなる問題として、同一症例内の浸潤部においても癌細胞の細胞質内HMGB1発現が強い部とほとんど見られない部が混在することが多く、これが固定条件の差異によるものであるか否かの検討を行ったのだが、ホルマリン濃度・ホルマリン固定時間のいずれの影響とも断定しえなかった。しかしながら、全体の傾向として毛細血管増生の著しい部位、あるいはその近傍においては乳癌細胞のHMGB1発現が多く見られる傾向があり、現在その観点から血管新生との関連について研究を継続中である。
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