研究課題
基盤研究(C)
核内DNA結合蛋白であるHMGB1は、近年種々の腫瘍においても発現が報告されているが、その意義や機能については不明である。我々は過去の大腸癌研究を通じて、着床関連蛋白トロフィニンが予後不良の大腸癌に発現し、さらにそのトロフィニン陽性大腸癌においてはHMGB1も高率に共発現していることを発見した。さらに、癌の表層部分では核にのみ発現するHMGB1が浸潤部においては細胞質にも発現していることを見出した。このことを踏まえ、本研究ではHMGB1の細胞内局在パターンと癌の生物学的悪性度や予後との関連について解析することを目的とした。まず進行大腸癌50例を対象にホルマリン固定パラフィン包埋標本を用いてHMGB1抗体を用いた免疫染色を施行し、浸潤性大腸癌の96%にHMGB1の発現があり、38%においては浸潤部においては核および細胞質の両者にHMGB1が発現することを確認した。次いで胃・肺・乳腺・前立腺の各臓器の浸潤癌20-30例に対して同様の免疫染色を施行し、それぞれ順に90%、75%、80%、70%の陽性率を得た。特に乳癌においては浸潤部において強くHMGB1が発現していたために、乳癌の症例数を二百に増やして同様の検討を行い乳癌の予後因子とされる核グレード、腫瘍径、乳癌組織型、増殖能等とHMGB1との発現を比較検討したが、これらのHMGB1発現と乳癌の予後因子とされる核グレード、腫瘍径、乳癌組織型、増殖能等との相関は見出すことができなかった。また、浸潤部におけるHMGB1の細胞質内発現は多くの癌において観察されたが、陽性細胞の分布が腫瘍内で不均一となる症例が多く、残念ながら厳密な意義付けが難しい結果となった。これらの観察を通じて毛細血管増生の著しい部位あるいはその近傍において腫瘍細胞のHMGB1の発現が多く見られる傾向が伺えたため、腫瘍の血管増生・血管新生とHMGB1発現との関連について検討を加えたが、これについては期間内に十分な結果を得ることが出来ず、今後の課題となった。
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Int J Cancer. 121(5)
ページ: 1072-8