これまで、comparative genomic hybridization (CGH)を用いて胃癌の系譜解析を行ってきた。その結果、低分化腺癌(POR)で腺管成分(TC)を含むものは、その2/3が腺管腺癌(TUB)に由来する脱分化腺癌であり、残りの1/3と腺管成分を含まないものが印環細胞癌(SIG)に由来すること、粘膜内に限局したTUBでは8q-と17p+が見られたのに対して、TCを含むPORでは8q+と17p-が見られ、両者は染色体上の系譜が異なることを報告してきた。昨年度と今年度合わせて2例の粘膜内癌と2例の粘膜下浸潤癌でCGHおよびアレイCGHを行い、粘膜内癌の2例ではCGHで17pのgain、アレイCGHでTP53のコピー数増加を認めた。一方、粘膜下浸潤癌の2例では、いずれも17pのgainは見られなかった。(粘膜部では17pのlossがみられたが、粘膜下部では17pはlossもgainも見られなかった。)このことから、早期の分化型腺癌が脱分化腺癌に至ることは比較的まれであろうと推定されたが、今後もアレイCGHの症例を増やしてゆく予定である。今年度は更に、免疫組織化学的にp53と腸型発癌でよくみられるβ-カテニンの核内発現との相関を分化型の早期癌28例と脱分化腺癌8例との間で比較し、両者とも陽性のものが前者では17.8%であったのに対して、後者では50%を占め、この面からも、分化型早期癌が脱分化腺癌に至る可能性は大きくないことが分かった。また、腺癌の脱分化に野生型TP53の不活化と(β-カテニンを含む)Wntシグナル系の活性化の両者がかかわっていることが示唆された。
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