染色体脆弱部位に位置するがん抑制遺伝子候補であるfragile histidine triad (FHIT)遺伝子とWW domain-containingo xidereductase (WWOX)遺伝子の機能解析を行った。FHITはヒト口腔癌の発生過程において早期より発現低下が生じ、これがDNAダメージを認識するChk2の活性化消失をもたらす事実を明らかにした。アデノウイルスを用いたFhitタンパク発現回復は、放射線照射時にこの消失したChk2活性を上昇させることが明らかとなった。これら培養細胞株を用いた実験を礎に、Fhit遺伝子ノックアウトマウスによる研究を行った。マウス前胃に発癌剤NMBAにて発生させた扁平上皮由来の前癌性病変や腫瘍性病変では、高頻度にChk2活性化が抑制されており、そのシグナルの下流に存在するCdc25Cのリン酸化調節にも影響を及ぼすことが判明した。以上より、Fhit発現低下が口腔癌発生を加速度的に増加させるメカニズムが明らかとなった。また、本研究ではWWOXの発現低下についてもヒト膵癌で検索した。高頻度なWwox発現低下が生じており、これがプロモーター領域のメチル化と密接に関連していた。また、WWOX発現回復はSMAD4発現上昇とともに膵癌細胞の増殖抑制とアポトーシス誘導を引き起こすことを確認した。この様ながん抑制遺伝子としての機能に関して、WwoxタンパクのWW1ドメインの33番目のチロシン残基が重要であることを変異型WWOX発現ベクターを用いて明らかにした。Wwox発現低下は膵管内乳頭腫瘍においても早期から生じる異常であり、膵管由来の腫瘍性病変発生にWwoxの機能異常が重要であることを解明した。以上から、染色体脆弱部位に位置するがん抑制遺伝子候補であるFHIT遺伝子とWWOX遺伝子の遺伝子産物はがん抑制効果があることが明らかとなった。
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