中皮腫と非腫瘍肺組織の間で統計学的に有意差をもって発現異常の見られる遺伝子のクラスター化を行った研究結果の一部は、すでに昨年度報告したが、その後の検討を加えて、中皮腫では1086遺伝子の過剰発現と596遺伝子の発現低下があることが判明した。過剰発現のある遺伝子には、calbindin2(calretinin)、 keratin5、 PDGF、 Ki-67などが含まれ、FFPE材料からでも十分に遺伝子異常の有無を検討できることがわかった。また、中皮腫と肺腺癌の遺伝子発現の差異の解析では、中皮腫には575遺伝子、肺腺癌には134遺伝子の発現の過剰を認めた。同じく、中皮腫と肺肉腫様癌の遺伝子解析では、中皮腫には75遺伝子、肺肉腫様癌では66遺伝子の発現過剰を認めた。また、Wnt-signal経路に関する遺伝子では、WIF1、 MMP7、 β-cateninなどの発現低下とCaM kinase、 Nemo-like Kinaseなどの過剰発現を認めた。今年度はさらに、凍結材料及びFFPE材料を用いたReal-time RT-PCR法にて、中皮腫にはNDRG-1、 HAS-1遺伝子のmRNAの発現の増加を認め、また、中皮腫にはWnt-signal経路では、多くの遺伝子(WIF1、 MMP7、 β-catenin1)の発現減少と、CaM kinase、 Nemo-like kinaseの発現増加を認めた。 メチル化及び非メチル化特異的プライマーを用いたMethy lation Specific PCRでは、中皮腫の76%と非腫瘍性肺組織の32%にはWIF-1プロモーター領域のメチル化を認め、WIF-1の発現減少はメチル化によるものと考えた。中皮腫細胞株用いた研究では脱メチル化剤の投与にてWIF-1遺伝子の再発現を認めた。 この結果から中皮腫にはWNT-signal経路の異常考えられる。
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