大腸癌30例(左側20例、右側10例)を用いて、腺管分離法で、各症例の癌腺管と正常腺管を単離した。各癌腺管を単離腺管のままMUC5AC(胃型形質)もしくはCD10(小腸型形質)抗体を用いて免疫染色を施行した。各抗体によって染色された癌を、各々実体顕微鏡下で、回収した。従って、本研究のサンプルは、正常腺管サンプル、MUC5AC陽性癌腺管サンプル、CD10陽性癌腺管サンプルの3サンプルになる。MUC5AC陽性腺管は右側に多く、CD10陽性腺管は左側に多く見られた。MUC5AC陽性腺管サンプルは4例にみられた。一方CD10陽性腺管は8例にみられた。それぞれのサンプル間で、それぞれ17p、5q、18q、8p、22qのallelic imbalance(AI)及びp53、ki-ras遺伝子変異について解析した。前者はPCR-LOH法で、後者はexon5-8及びexon 1をそれぞれdirect sequence法を用いて解析を行った。加えてMSI解析も行った。次にCPBRA法で、MLH-1、p16、RASSF2-A、DKK1、SFRP、SALL4、HPP1、ZFP64、MGMTの各遺伝子のメチル化解析をした。AI、メチル化の程度は、それぞれ30%以上異常がみられたものを高、それ未満を低、とした。MUC5AC陽性癌腺管は、高メチル化、低AI、p53、ki-ras変異例が少なく、CD10陽性癌腺管は高メチル化、高AI、p53、ki-ras変異例が多くみられた。MSIはMUC5AC陽性腺管に1例みられた。MUC5AC陽性癌腺管とCD10陽性癌腺管では、分子レベルで差異がみられ、両者は異なった分子異常を有していることが示唆された。
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