心筋架橋の解剖学的特性が心筋虚血の発生原因となり得るという作業仮説に関して、多数の100例の心筋梗塞及び200例の非心筋梗塞例の剖検例を蒐集し、左冠状動脈入口部から、前下行枝に沿って、周囲の脂肪織・心筋組織と共に、冠状動脈を採取した。各々につき、5mm間隔で、横断面を切り出し、通常の光顕標本を作製し、これらを組織計測により測定した。測定については、5mm間隔による切片から、心筋架橋の位置・長さを求め、顕微測定により、心筋架橋を構成する心筋の厚さを求めた。画像解析装置により、各動脈断面の内膜面積/中膜面積の比をもって、各断面の動脈硬化度とした。 その結果、心筋架橋を有し、心筋梗塞を発生していた症例群にみられる心筋架橋は有意に厚く、又、その長さが長い傾向にあることが窺われた。心筋架橋を構成する心筋の容量を、長さX厚さとすると、心筋架橋を構成する心筋の容量は、対照群に比して、有意に大きかった。又、これらの例においては、最も動脈硬化の高度な部分は、心筋架橋の入口から2cm近位方向に、有意に集中していることも明らかとなった。又、これらの症例群の心重量・血清脂質の値は、心筋架橋がなく心筋梗塞の発生した症例群の値と差は無く、心筋架橋は、これらとは独立した解剖学的因子となることが判明した。 今回の研究結果は、心筋梗塞の予防は、専ら、高脂血症、高血圧、糖尿病など、既知の危険因子を中心とした対策が、強調されてきたが、新たな先天的な解剖学的な危険因子として、心筋架橋の問題を考える必要があることを、国内外に先駆けて明らかにしたといえる。
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