肺腺癌の前癌病変であるAAHは偶発的に見出されることがほとんどで、遺伝子検索が容易に行える凍結組織が得られることはほとんどない。また、5mm以下の小さな病変であることから、通常検索法であるパラフィン切片からDNAをとることも容易ではない。これらの理由で遺伝子変異の検討が進んでいないのが現状である。そこで、パラフィン未染標本1枚から、これら遺伝子変異の検討を可能にする系を確立した(J Mol Diagn 2006)。この方法を用いて、世界に先駆けて包括的な肺腺癌における前癌病変についての遺伝子変異解析を行った。AAH 50例、上皮内癌に相当するBAC 50例、早期浸潤癌30例についての解析を終了した。その結果、AAH、BAC、早期肺腺癌で比較すると、AAHではKRASの頻度が有意に高く、BACにはEGFR遺伝子変異が高い傾向があることが判明した。これらの結果とKRAS遺伝子変異が浸潤癌では頻度が低いことを考慮すると、KRAS遺伝子変異を有するAAう病変は同Hはもはやそれ以上進展しない病変の可能性が示唆された。また、AAHといじであっても、EGFR遺伝子変異を有するAAHはBAC、さらには浸潤癌と浸潤する可能性が示唆された。現在CTなどで発見される孤立性すりガラス様陰影については、経過観察中の大きさの変化や充実性病変が付加された場合に切除が行われているが、切除すべきか否かの判断は難しい。得られた結果から、遺伝子異常を調べることで、積極的に介入すべきか否かについての決定に役立つと思われる。そこで、早期肺癌を用いた国内臨床治験(JCOGなど)と連携をとり、まずは後ろ向き研究としてどのような結果が得られるか検討を始めつつある。
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