研究課題
チェルノブイリ原発事故から23ネンガ年が経過し、同地域の非被曝小児症例が集積されるようになり、同じ遺伝子背景・環境因子の対照症例との比較が可能になってきた。チェルノブイリ組織バンクには、現在までに約3,000例におよぶ甲状腺腫瘍組織が登録されている。予後は概して良好で5年生存率が98.8%、10年生存率が95.5%と報告されている。甲状腺癌の約90%は乳頭癌が占めるが、最近の解析では、潜伏期が長い症例に濾胞性腫瘍の頻度が高くなることが示された。これまでの解析の結果、放射線誘発小児甲状腺癌に被曝特異的な組織型は存在しないことが明らかになってきた。乳頭癌の亜型(乳頭状、濾胞状、充実性)の頻度は被曝、非被曝群間で有意な差は見られていない。しかし被曝時年齢と潜伏期の視点から解析するとある種の形態発現が規定されていることが明らかになった。充実型乳頭癌は潜伏期の短い症例の特徴であることが明らかにされてきた。充実性成分は被曝時年齢よりも短い潜伏期と関連しRET/PTC3変異が高率に観察された。濾胞構造は低年齢被曝、乳頭状構造は年長児被曝と関連が見られた。高分化型形態を呈する乳頭癌ではRET/PTC1変異が優位であった。短い潜伏期ほど浸潤性が高く、長い潜伏期ほど腫瘍辺縁の線維化が目立った。BRAF変異は被曝との関係はなく、低年齢での発現は少なく成人症例で多く見られた。BRAF変異は年齢との関連が強いことが示された。ヨード摂取の高い日本の小児甲状腺乳頭癌症例は乳頭状構造が優勢で、英国はチェルノブイリ周辺地域と日本の中間の程度を呈していた。チェルノブイリにおける小児甲状腺癌に充実性要素が他の地域に比し高いことは、低ヨード摂取や遺伝的背景に規定される部分が大きいことが示唆された。
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