実験動物における若年時からの適度のカロリー制限(CR)は、様々な疾患の発症や生理的な老化現象を抑制し、寿命を延長する。我々は、今までの研究成果からCRのメカニズムとして、白色脂肪組織の形質変化(脂肪細胞の小型化、代謝の活性化、炎症の抑制)が重要である可能性、さらにCRによる白色脂肪組織の形質変化に、転写因子であるsterol regulatory element binding protein (SREBP)1およびliver X receptor(LXR)が関与している可能性を示唆した。本研究において、我々は野生型マウス(SWL)ではCRにより発現が増加するが、SREBP1ノックアウトマウス(SKO)ではCRによる発現増加が抑制されている遺伝子群、すなわちCRによる白色脂肪組織の形質変化のうちSREBP1により制御されていると考えられる遺伝子群を同定した。また、SKO自由摂食群(SKO/AL)とカロリー制限群(SKO/CR)、野生型AL群(SWL/AL)とCR群(SWL/CR)の寿命を解析しているが、108週齢現在で生存率は各々33%、55%、67%、80%で、SKO群の寿命が有意に短いようである。飼育期間中の最大体重は、35.9±5.4g、26.8±2.0g、34.2±4.8g、22.0±1.9gであり、CRに伴う体重比(CR/AL)はSKOで74%、SWLで64%であり、CRが最大体重に及ぼす影響はSREBP1ノックアウトにより抑制されているようであった。今後、さらなる検討が必要であるが、本研究成果はCRの作用の一部にSREBP1が関与している可能性を強く支持するものである。
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