膵がんは早期発見が最も難しいがんのひとつであり、診断されたときにはすでに切除できない場合が多い予後不良な難治がんである。膵がんの起始細胞とがんの進展過程を把握することにより、新たな膵がん診断と治療の開発が期待される。これまでに我々は、Cre/loxPシステムを用いたヒト活性型HrasまたはKrasトランスジェニックラット(Hras250、 Kras301/327)において、全ての感染細胞で非特異的に発現するCre発現アデノウイルスベクター(CAG-Cre)を成獣の膵臓に注入し、ヒト活性型Rasを発現させることにより、4週間程度の短期間に膵管がんを発生させる方法を開発してきた。アデノウイルスベクターは膵管、介在管、腺房中心細胞および腺房細胞に感染していたことから、これらのいずれかの細胞より発生すると考えられた。膵腺房細胞を特異的に標的とするCre発現アデノウイルスベクター(Amy-Cre、 Ela-Cre)を、Kras327ラットの膵に注入し、膵腺房細胞にのみ活性型Rasを発現させたが、いずれの活性型Ras発現腺房細胞もKi67またはPCNA陰性で増殖像はみられなかった。CAG-Creでは4週間以内に膵がんが発生するのに対し、Amy-Cre/Ela-Creでは6ヶ月経過後も腫瘍性病変は発生しなかった。また、成獣の膵島細胞にCreを発現するトランスジェニックラットとの交配によっても膵腫瘍性病変は発生しなかった。したがって、我々のモデルでは成獣の膵管・介在管・腺房中心細胞から膵管がんは発生することが強く示唆された。
|