研究概要 |
本研究の目的は、「肝幹細胞/前駆細胞」とされるoval cellが出現し「肝幹細胞/前駆細胞」の関与が推測されている実験的ラット肝発癌モデル(resistant hepatocyte"RH"モデル)を用い、その発癌過程での「肝幹細胞/前駆細胞」の動態を追跡するprospectiveな手法により「肝細胞癌は肝幹細胞/前駆細胞に由来する」ことを示すことにある。oval cellは特有の形態を有するも多様な遺伝子を発現し、近年heterogenousな細胞集団との指摘もなされ、「肝幹細胞/前駆細胞」としての本体にcommitする遺伝子の探索が行われている。またRHモデルにて出現するoval cellに関する研究は乏しい。本年度は、先ずoval cellが発現する幹細胞マーカー遺伝子の中で、肝前癌性病変である胎盤型glutathione S-transferase(GST-P)陽性巣への進展にcommitする遺伝子を、蛍光免疫染色と共焦点顕微鏡を用い、病変の進展に沿ってGST-P発現とmergeしつつ探索した。選択した幹細胞マーカーはThy-1,CD34,c-Kit,EpCAM(epithetlial cell adhesion molecule)である。「方法」RHモデルを以下に示す。N-nitrosodiethylamine(DEN)(200mg/kg体重、一回腹腔内投与)によりinitiate→2週目より0.02% 2-acetylaminofluorene(2-AAF)含有食を2週間投与→4週目に基礎食に戻す。2-AFF食開始1週目(実験関始3週目)に2/3肝部切除により増殖を刺激(2-AFFによる成熟肝細胞増殖阻害下での増殖刺激はoval cellを増生せしめる)。5週目に多数のGST-P陽性巣が出現する。実験開始3.5,4,5週目の肝の凍結切片をAlexa Fluor-488または-594標識二次抗体を用いた免疫染色に供した。「結果」(1)GST-P陽性巣の発生と進展へのThy-1発現oval cellの開与:3.5週の早期に散見されるGST-P陽性oval cellの集族巣はThy-1陽性であり、早期の小さなGST-P陽性巣はoval cell様細胞と小型〜中型肝細胞様細胞が混在しいずれもGST-P,Thy-1陽性であった。Thy-1陽性oval cell様細胞は一部卵円形を示すも多くはmesenchymal/stellate細胞様形態を示し、4週、5週に出現する小〜中サイズのGST-P陽性巣内の全領域に、また大サイズの陽性巣内では特に辺縁にこのような形態のThy-1陽性細胞が多数出現し、また陽性巣周囲には更に強いThy-1陽性細胞の浸潤を見た。(2)c-Kit,EpCAM,CD34発現の動態:上記3.5週のGST-P陽性oval cell集族巣はc-Kit陽性、また早期小GST-P陽性巣では辺縁の肝細胞様細胞がEpCAM陽性であった。4週,5週のGST-P陽性巣内の肝細胞は瀰漫性にc-Kit,EpCAM弱陽性を示し、時にCD34,EpCAM陽性のoval cell様細胞が散見された。またGST-P陽性巣周囲に多数のGST-P陽性または陰性のoval cell様細胞、小型〜中型時に大型の肝細胞様細胞が浸潤し、これらはCD34,EpCAM,c-Kit陽性であった。「結果の意義」血液幹細胞マーカーであるThy-1を発現するoval cellがGST-P陽性巣の発生と進展に深く開与する可能性が示唆された。特にその形態と陽性巣内での局在は腫瘍性細胞殖に必要なニッシェとしての機能も示唆する。同じく血液幹細胞マーカーのc-KitとCD34、また最近「肝幹細胞/前駆細胞」へのcommitが指摘されたEpCAM遺伝子のいずれもがGST-P陽性巣が「肝幹細胞/前駆細胞」の何らかのcommitを伴う病変であることを強く示唆するものである。
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