C型肝炎ウイルス(HCV)は、感染後、80〜90%もの効率で持続感染し、慢性肝炎、肝硬変を引き起こし、さらに年率7%もの高率で肝細胞癌を発生させる。本研究者らはHCV感染肝癌患者組織のHCV-RNA量を定量し、癌部では非癌部に較べ少ないことを報告した。その事実から、HCVは発癌前の肝細胞に何らかの影響を与え、肝癌発生初期に寄与することを推測した。またHCV感染肝癌組織切片について、DNA二本鎖切断を引き起こすDNA傷害の組織学的マーカーであるγH2AXの検出を実施したところ、HCV感染肝組織で非癌部と癌部両方でγH2AXが検出され、HCV陰性の肝組織の非癌部に較べて広範囲に検出された。この結果からHCVの感染によるDNA傷害の蓄積が、遺伝子不安定化を誘導し、発癌に寄与する可能性が示唆された。そこで我々は、HCV感染組織によって認められるDNA傷害が、どのような機序で起こされるのか解明することを目指し、HCVによるDNA傷害について、DNA修復関連蛋白の機能に焦点を当て、解析することを目的として研究を進め、まずHCV発現によるDNA傷害を検出可能な培養細胞系を下記のように構築した。 Sce-1発現アデノウイルスによりDNA二本鎖切断(DSB)を導入し、その後相同組換え(修復)が起こるとGFPの蛍光を発生する特徴を持つヒト繊維肉腫細胞株にレンチウイルスでHCV各蛋白を発現させ35日間培養した。この各HCV蛋白発現細胞に、経日的にSce-1発現アデノウイルスを感染させ、FACS解析によりGFPの蛍光を生じた細胞数の割合から相同組換え(修復)の異常の有無を確認した。またspontaneousな状態でHCVによる修復異常もHCV発現細胞で確認した。各実験系でGFP陽性細胞の割合がEmpと差があるHCV蛋白が存在し、HCV蛋白によるDNA傷害または修復異常の可能性が示唆された。
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