研究概要 |
悪性中皮腫において癌抑制遺伝子neurofibromatosis type 2(NF2)の高頻度な変異・欠失が報告されており、腫瘍発生・進展に重要な役割を果たしていると考えられている。NF2遺伝子のホモ欠失した中皮腫細胞株NCI-H290にレンチウイルスを用いて野生型のNF2遺伝子を発現させたところ、細胞増殖の抑制がみられ、アポトーシスが誘導された。変異型マーリン(FERMドメインのみ)を発現させた細胞株では増殖抑制およびアポトーシスの誘導は観察されなかった。野生型のマーリンを発現させた細胞株では新規のシグナル経路であるHippo経路の活性化の指標であるYAP1のリン酸化の上昇がみられた。AKTの活性化は低下していた。NF2遺伝子導入細胞よりRNAを抽出し、マイクロアレーを用いて変異型マーリンと発現の異なる遺伝子の網羅的な検索を行ったところ、約80の有意に発現の異なる遺伝子が検出された。これらの遺伝子の幾つかについては発現の変化がリアルタイムPCR法にても確認された。さらにNF2遺伝子に不活性型変異を有する4細胞株においてもマーリンの発現によるこれらの遺伝子の発現の変化について解析したところ、細胞株特異的な遺伝子がいくつか存在したが、PRKCE,PSG遺伝子群はいずれの細胞においても発現の変化が確認された。PRKCE,PSG遺伝子はNF2遣伝子導入により発現の低下する遺伝子であり、14細胞株においてこれらの遺伝子の発現を調べたところ、NF2遺伝子の不活性型変異を有する細胞株において発現の高い傾向がみられた。NF2遺伝子に変異を有する中皮腫においてこれらの遺伝子が中皮腫の増殖に関与している可能性が示唆された。中皮腫細胞株における個々の遺伝子の生理学的役割についての詳細な解析を行い、治療標的および診断マーカーとしての可能性についての検討を行っている。
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