マラリアは世界中で年間2〜3億人の感染者、150万人の死者を出す重要な感染症である。マラリア原虫のロプトリーは細胞周期の最後の分裂体期で形成されるが、ロプトリータンパク質であるRhopH2のプロモーターとシグナル配列と融合するだけで、緑色蛍光タンパク質(GFP)がロプトリーに移行することを我々は見出した。このタンパク質輸送機構の詳細は全く明らかでなく、この機構を明らかにすることで、マラリア原虫に対する新たな薬剤標的となると考えた。本研究では、赤血球侵入型マラリア原虫の細胞内小器官ロプトリーへの輸送シグナルとなるシグナル配列を明らかにし、輸送に関与するタンパク質群および輸送されるタンパク質群を同定することを目的とした。初年度はロプトリーへの輸送がロプトリータンパク質のシグナル配列の普遍的な特徴かどうかを検討するため、メロゾイト期に発現し、細胞内局在が異なるRhopH2、EBA175、SERAといった代表的な熱帯熱マラリア原虫のタンパク質のシグナル配列部の遺伝子と緑色蛍光タンパク質を結合して発現するコンストラクトを、Invitrogen社のMultisite Gatewayシステムを用いて作成し、熱帯熱マラリア原虫に遺伝子導入し、選択薬剤WR99210を加えて、組換え熱帯熱マラリア原虫を作成した。ところが、得られた薬剤耐性原虫について、分裂体期にGFPシグナルがロプトリーに局在するかどうか、共焦点レーザー顕微鏡にて観察したところ、ライブイメージでも、間接蛍光抗体法でもGFPの発現が観察できなかった。種々の条件を検討した結果、Multisite Gatewayシステムの結合部位の配列が転写を阻害している可能性が示唆された。
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