細菌感染における病原性因子の転写調節と定着因子の解析 (1)黄色ブドウ球菌の病原因子レギュレーター・Sarファミリーの転写調節解析 黄色ブドウ球菌の病原性は、Sarファミリーの複合的な転写調節系により制御されている。SarS過剰発現は菌凝集を抑制するのに対し、SarTおよびSarU過剰発現は強度の菌凝集を起こした。これら過剰発現体の転写プロファイルをマイクロアレイで解析したところ、SarTおよびSarU遺伝子近傍にコードしているSasG遺伝子の転写増強が明らかになった。 (2)細胞壁架橋蛋白質SasGによる黄色ブドウ球菌の自己凝集の解析 SasGは、細胞壁架橋型蛋白質であり、上述(1)により菌凝集に直接関与する可能性が示唆された。sasG遺伝子に変異を導入すると菌凝集が消失し、プラスミドによりsasG遺伝子を相補すると菌凝集が回復した。SasGはAドメインと8回の繰り返しBドメインを有し、凝集に関与するドメインを検討したところ、Aドメインを相補した時にバイオフィルム・菌凝集の回復が見られた。組換えSasG-A発現体をNat0ive電気泳動法およびフォルマリン架橋実験で分析したところ、4もしくは8量体のホモ複合体を形成していることが分かった。これら結果は、SasGが菌凝集・バイオフィルム形成を亢進し、臨床で見られる黄色ブドウ球菌の微小膿瘍の形成に関わっている可能性が示唆された。今後、感染時におけるSarファミリーの転写調節機構と、その転写制御下のSasGによる菌凝集、微小膿瘍形成、そして抗菌薬治療の難治化に関与しているのか明らかにすることが今後の課題である。
|