腸管出血性大腸菌(EHEC)の産生する志賀毒素1(Stxl)と志賀毒素2(Stx2)は産生時の分布に違いがあり、Stxlは菌体内から検出されるが、Stx2は培養液中に存在する。この分布の違いから、EHECにはStx2に対する特異的な菌体外への分泌機構があることが想定されており、我々はすでにその分泌にはStx2のBサブユニットの31番目のセリン残基が重要なことを報告している。 一方、stx1とstx2遺伝子は共にEHECに溶原化しているλファージファミリーであるStx-ファージゲノムのlate operon内に存在していることが知られている。このことは志賀毒素遺伝子がStx-ファージ誘導に伴って、late遺伝子群の一つである溶菌遺伝子とともに転写されることを示唆している。また、EHECをマイトマイシンCで処理すると、Stx2の産生量は増加するが、Stx1の産生量はほとんど変化しないことも報告されている。これらのことから、Stx2の特異的な菌体外への放出には特異的なStx2-ファージ誘導に伴う、一連のファージ複製機構が関わっている可能性が考えられた。 そこで、そのことを明らかにするために、1)Stx2-ファージにコードされている溶菌遺伝子を欠失した変異株、2)Stx2-ファージ内のstx2遺伝子をstx1遺伝子に置換した変異株を作成し、各々の志賀毒素の分布を解析した。 その結果、1)溶菌遺伝子を欠失した変異株ではStx2は菌体内から検出された。2)stx2遺伝子をstx1遺伝子に置換した変異株ではStx1は菌体外から検出された。これらのことから、Stx2の特異的な菌体外への放出には、Stx2特異的な分泌機構だけではなく、Stx2-ファージ特異的なファージ誘導機構も関与していることが明らかになった。
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