本研究では、新興感染症「アナプラズマ症」の病原体である難培養性Anaplasma phagocytophilumのゲノム配列解読を視野に入れ、自然界に生息するマダニからのA. phagocytophilumゲノム部分構造を明らかにすることを目的とした。A. phagocytophilumには、p44/msp2主要外被膜蛋白遺伝子群による抗原変異の存在が知られている。これは、ゲノム上に散在する多数のp44/msp2相同性遺伝子カセット群がゲノム上の1箇所にあるp44/msp2主要発現領域(約7kb)で組換えられ、生体内でA. phagocytophilumの抗原変異を引き起こすものである。このゲノム上のp44/msp2発現領域構造は、米国と欧州のA. phagocytophilumで明らかになっているが、アジア地域のA. phagocytophilumの報告はない。19年度は、静岡県および東北地方で採集したマダニ唾液腺DNAからp44/msp2発現領域の増幅に成功し、それぞれの塩基配列の解読を行った。20年度は得られたp44/msp2発現配列を基に、その上流と下流を解析したところ、欧米のA. phagocytophilumの上流側に存在するomp-INと下流側のrecA偽遺伝子が、東北地方のマダニからのA. phagocytophilumには認められるが、静岡県のマダニからのA. phagocytophilumには見られなかったことが判明した。また、東北地方のomp-INとrecA偽遺伝子のアミノ酸配列を欧米のものと比較したところ、東北のomp-INは欧州の動物由来株と、また東北のrecA偽遺伝子は米国の患者由来株と、それぞれ最も高い相同性を示すことが判った。この結果は、東北地方のはA. phagocytophilum発現領域周辺の類似性において、米国のものや欧州のものとshareしていることを示唆している。さらに、p44/msp2のN末端保存領域を標的としたリアルタイムTaqMan-PCRによる簡易探索法について検討した結果、改良は必要なものの、A. phagocytophilumの検出には有効であることが判明した。
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