研究概要 |
結核菌をはじめとする抗酸菌は細胞表層が脂質成分に富むことが最大の特徴であり、代表的な脂質成分であるミコール酸は、菌種特異的に炭素鎖長、構成サブクラス(α、メトキシ、ケト、ジカルボキシ、エポキシ等)、不飽和度(シクロプロパン環、二重結合)が異なり、幾何異性体も存在する。本研究では、ミコール酸分子種や修飾基が構造特異的に宿主応答と連関し制御因子として働き、結核菌の病原性や毒性の発現に寄与していることに着想し、各種ミコール酸合成遺伝子欠損結核菌変異株の作製とミコール酸分子の宿主免疫応答を制御する因子の同定、宿主細胞の応答機序を解明し、その分子機序の一端を明らかにすることを目的とした。本年度は、まずミコール酸合成遺伝子欠損結核菌変異株ΔmmaA2,ΔmmaA4,ΔkasB株をファージ型遺伝子導入法で作制した。各変異株の死菌体よりミコール酸画分を抽出し、薄層クロマトグラフィー(TLC)、飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)、核磁気共鳴(NMR)解析により、構成サブクラス、炭素鎖長、幾何異性体を同定した。ΔmmaA2株はα-ミコール酸の遠位のシクロプロパン環が二重結合に変換されていた。ΔkasB株は2-8炭素鎖長が短くなり、トランス型シクロプロパン環が欠損していた。各変異株を野生株と比較して、形態学的・生化学的に観察すると抗酸菌特有のコード紐状形態や抗酸性の減弱化が明らかとなった。ΔkasB株由来cord factor(trehalose-dimycolate)は構成ミコール酸分子種、修飾基が野生株と異なり、マウス尾静脈より投与し、経時的に各臓器(肺、脾臓、肝臓)に誘導される肉芽腫炎症病変を病理組織学的に解析すると野生株由来cord factorに比べ軽減されていた。これらの結果は、ミコール酸分子の構造により宿主免疫応答が制御されていることを示唆するものである。
|