研究概要 |
結核菌細胞表層の特徴的な構成成分であるミコール酸は炭素鎖長80-90からなる天然では希な長鎖脂肪酸である。菌種特異的に炭素鎖長、構成分子種(α、メトキシ、ケト、ジカルボキシ、エポキシ等)、不飽和度(シクロプロパン環、二重結合)が異なり、幾何異性体も存在し、結核菌の形態(コード紐状)や抗酸性に加え、宿主防御機構への関与が想定される。本研究では、ミコール酸分子種や修飾基が構造特異的に宿主応答と連関し制御因子として働き、結核菌の病原性や毒性の発現に寄与していることに着想し、各種ミコール酸合成遺伝子欠損結核菌変異株の作製とミコール酸分子の宿主免疫応答を制御する因子を同定し、結核菌への宿主感染防御機構の一端を解明することを目的とした。 前年度の成果で得られたミコール酸合成遺伝子欠損結核菌変異株△mmaA2,△mmaA4,△kasB株について各変異株の死菌体よりミコール酸画分を抽出し、構成サブクラス、炭素鎖長、幾何異性体を同定した。△mmaA2株ではα-ミコール酸の遠位のシクロプロパン環が二重結合に変換され、△mmaA4株ではメトキシミコール酸が欠損していた。△kasB株は2-8炭素鎖長が短くなり、トランス型シクロプロパン環が欠損していた。特に、△kasB株は抗酸性の消失が明らかとなり、細胞表層脂質分子であるミコール酸の修飾により形態学的な変化を生じていた。マウス骨髄性マクロファージを△kasB株及び野生株の死菌体で刺激したところ、刺激24時間後の培養上清に産生される炎症性サイトカインTNF-α、IL-1βは△kasB株の方が優位に低く、マウスの感染実験における生存率から△kasB株は野生株より弱毒化していることが示された。これらの結果は、ミコール酸修飾が抗原性の低下を招き病原因子として宿主免疫応答に重要であることが示唆された。
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