抗酸菌特異的蛋白質であり、菌体内で転写因子として働くMycobacterial DNA-binding protein 1 (MDP1)の薬剤耐性にかかわる作用を調べたところ、MDP1欠失によりストレプトマイシンへの感受性が増強することがわかった。 MDP1はストレプトマイシンと競合的にリボゾームに結合することで薬剤の作用を阻害しているのではと考え、精製リボゾームを用いてストレプトマイシンの結合に対するMDP1の影響を調べたところ、MDP1による薬剤の結合阻害は認められなかった。そこで、他のタンパク合成阻害剤についてもMDP1による影響を調べたところ、ストレプトマイシンと同じアミノグリコシド系抗生物質であるアミカシンでもMDP1欠失により感受性が増強されることがわかった。それに対して、エリスロマイシンやクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質においては、反対に感受性の減弱が観察された。次に、マイクロアレイ解析を行いMDP1欠失による遺伝子発現の変化を調べたところ、複数の薬剤排出に関わる遺伝子の発現がMDP1欠失により増減することがわかった。以上の結果から、アミノグリコシド系抗生物質についてはこれらの遺伝子の発現の低下による薬剤排出機能の低下によって感受性の増強が起こるのではないかと推察される。また、マクロライド系抗生物質も、何らかの薬剤代謝経路がMDP1により制御されることによるものであると考えられる。
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