百日咳の診断法として、国内においては主に血清診断が使用されている。現在使用されている血清診断法はワクチンに含まれる成分に対して反応する抗体を指標とするため、ワクチン接種者と感染者の鑑別ができない。このためそれらを鑑別できる血清診断法が求められている。一方で、パラ百日咳菌による百日咳には現行のワクチンは無効であり、詳細な疫学調査が望まれるところであるが、パラ百日咳菌の血清診断法は存在すらしていない。PCRは特異的かつ高感度の病原体検出法として使用されてきているが、百日咳起因菌はサンプリングの時点でDNAの検出感度を下回っている事が多く、国内における患者検体からのPCR陽性頻度は30%しかないと報告されている。血清診断は病原体が宿主から排除された後も診断可能であり、多くの医療機関で実施可能かつ保険適用可能なフォーマットである。本研究ではより正確かつ高感度な百日咳診断法に直結する基盤研究として、百日咳起因菌の感染によって誘導される血清応答を解析した。 平成20年度は、平成19年度に発見した百日咳菌感染特異抗原3分子およびパラ百日咳菌感染特異抗原10分子について、それら抗原の性状をデータベース解析し、感染特異性の点で特に有望と考えられる分子(百日咳菌関連3分子およびパラ百日咳菌関連7分子)を同定した。それらの組み換えタンパク質は患者または感染動物によって認識され、血清診断用抗原の候補となりうることを確認した。パラ百日咳菌の産生する繊維状赤血球凝集素は百日咳菌のものと非常に高い相同性を有するにも関わらず、パラ百日咳菌感染特異性が高かった。その抗原認識部位はC末側に存在し、2菌種間でアミノ酸配列の相違が際だっていた。この部位は百日咳起因菌2菌種を鑑別しうる血清診断に使用できる可能性が高いと考えられた。
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