研究概要 |
野生株のHIVではなく,薬剤耐性を持つ変異ウィルスに最大の薬効を持つ薬物の創出に向けて,HIVのL90M変異体に対し強い薬効を示すプロテアーゼ阻害剤の化学構造を計算機で設計した。阻害剤の計算機設計では,反応ポケットの歪み構造にフィットするように,薬物の骨格ならびに官能基を配置した。薬物には,多少の歪に合わせてコンフォメーションの変化が可能なように柔軟性を持たせるように特に注意をした。設計した薬物について,薬物とL90M変異型プロテアーゼとの複合体モデルを構築した上で,この複合体モデルに対し分子動力学計算を適用して実行した。生体温度、水溶媒条件下でのシミュレーションを通じて,薬物とプロテアーゼが十分になじんだ構造を作成して,薬物とプロテアーゼの結合エネルギーを算出し,薬効を予測した。50個程の化合物構造に対して上記の手続きを繰り返して,薬効が高いと思われる構造を選び出した。設計された薬物について,有機合成を開始した。主骨格ならびに側鎖領域を,部分ごとに別々に合成することとして,全7工程の合成経路を考案した。ステップにおける反応中間物について,NMRやIR吸収分光法ならびに質量分析器により構造の確認を行った。主骨格については,数mgを合成することができた。次に側鎖領域の主骨格への結合を行っている。これには選択的な結合位置の制御が必須となるので,主骨格の合成の時点で,反応を抑制したい部分について,保護基を付けて選択的な側鎖官能基の結合を行った。現在,最終合成物まで残り一段階まで到達した。
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