本研究では、ランダム変異導入法によりB型インフルエンザウイルスのHA(BHA)の任意の位置に任意のアミノ酸変異を導入し、変異HAの解析によりB型HAの構造と機能の基盤的解析を行うことを目的とした。本年度は主に分岐前BHAを基に変異HAの作製と機能解析を行った。作製した302個の1アミノ酸変異HA(192個はHA1領域、110個はHA2領域)の機能解析の結果を以下に示す。1.変異に対する許容性:HA全体では約80%、HA1領域のみでは76%、HA2領域のみでは88%となった。(ここで許容性は[レセプター結合能(ヒト赤血球に対する血球吸着能)を維持する変異HAの数/全変異HA数]x100で表す。)このBHAの許容性はすでに報告さているAHAの約2倍となる。BHAがAHAに比ベアミノ酸変異率が低い理由はBHAの変異に対する許容性が低いためではないことを示唆している。2.変異非許容部位:主にレセプター結合領域周辺とHA幹部に生じた変異がレセプター結合能を阻害した。さらに、ヒト赤血球と鶏赤血球に対する結合能に差がある変異部位が存在した。3.変異部位とアミノ酸の種類の重要性:同一部位に異なるアミノ酸変異が導入された変異HAの機能解析の結果、変異するアミノ酸の種類より、変異の生じる部位が機能に与える影響が大きいことが示された。4.分岐後HAでの同様の実験結果(未終了)は、Yamagata系統は分岐前HAと同程度の許容性を示すがVictoria系統はYamagata系統に比し変異に対する許容性が低いことを示していた。本年度の結果は、分岐前BHAはアミノ酸変異に対し許容性が高く、変異を許容しない部位は比較的限られていることを示していた。20年度には変異非許容部位の絞込み、および変異がウイルス粒子形成能に与える影響をさらに調べ、BHAの機能を維持する構造の分子的基盤を明らかにする。
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