自然免疫系のシグナル伝達系が心血管病態形成において果たしている役割を解明し、循環器系と免疫系のシグナル伝達のクロストークの解明、及び心血管病の新たな分子標的を発見することを目標とする。我々はinterferon regulatory factor (IRF)ファミリー転写因子の中でIRF-3遺伝子欠損マウスにおいて、心血管病態の発症が著しく促進もしくは抑制され、IRF-3のシグナル伝達系が心不全の分子標的であるアンジオテンシンII (AngII)による細胞内シグナル伝達系と一部共通する可能性があることを見いだした。IRF-3がどのような機構で活性化され、どのように免疫系を活性化するのかは不明である。本研究ではIRF-3がAng IIによる心臓線維化誘導にどのように関与しているかを分子レベルで明らかにし、臨床応用の可能性についても検討して行く。また、自然免疫系シグナル伝達に関与する分子の各種遺伝子改変マウスを用いて心不全発症のメカニズムにせまる。平成19年度は骨髄移植、アンギオテンシンIIによるIRF-3活性化の分子機構、標的遺伝子の検索について検討を行った。1.野生型マウスにIRF-3遺伝子欠損マウス由来の骨髄細胞を移入した移植実験を行った結果、野生型マウス由来の骨髄細胞を移入した際にもアンギオテンシンII付加による繊維化の誘導が認められたが、IRF-3遺伝子欠損マウス由来の骨髄細胞の移入では繊維化の誘導は認められなかった。このことから、間葉系由来細胞ではなく、骨髄系細胞で発現しているIRF-3がアンギオテンシンII刺激による心臓の繊維化に重要であるとが、示唆された。2.またメカニズムについて、アンギオテンシンII type Iレセプターを発現させたHEK293T細胞にアンギオテンシンIIで刺激を行い、IRF-3のリン酸化を検討した。IRF-3はウイルス感染時にはリン酸化を受け活性化し、核に移行することによって転写因子として機能することが知られている。実際、IRF-3はアンギオテンシンIIの刺激によってリン酸化を受け、核に移行することがウエスタンブロットにより確認されている。この時、各種キナーゼインヒビターを用いた実験から、このリン酸化のキナーゼを現在同定しつつある。またリン酸化される部位もIRF-3変異体を用い心臓からRNAを調製し、マイクロアレイ解析を行った。その結果、複数の繊維化にかかわるような遺伝子群を同定することができた。現在た解析から同定している。3.IRF-3は繊維化にかかわるような遺伝子の誘導に必須であるのかを検討するため、アンギオテンシンII付加を行ったマウス由来の心臓からRNAを調節し、マイクロアレイ解析を行った。その結果、複数の繊維化にかかわるような遺伝子郡を同定することができた。現在RT-PCR等によって、この結果を確認中である。
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