免疫系は、微生物をはじめとした種々の異物の侵入・増殖の危機から個体を守るために、様々な免疫担当細胞からなる協調的なネットワークを形成している。中でも自然免疫系と獲得免疫系の橋渡し的存在である樹状細胞は、免疫系の司令塔であるT細胞に抗原を提示すると同時に種々のサイトカインを生産することで、免疫系がTh1反応(細胞性免疫反応)を示すか、Th2反応(液性免疫反応)を示すかを規定する役割を担っている。Th1/Th2バランスに影響を与えるサイトカインの一つとして樹状細胞の生産するIL-12が挙げられ、申請者はPI3K経路が樹状細胞においてIL-12生産を負に制御している事を明らかにしている。本年度は、PI3K経路によるIL-12発現の負の調節機構の分子基盤解明を目指し、網羅的な解析を行った。 PI3Kの活性化は、Aktの活性化を介して、mTORの活性化やGSK3βの不活性化等、各種シグナル伝達分子の活性制御を引き起こす。一方、遺伝子改変マウスの解析からp38MAPK経路がIL-12の生産を正に調節していることが明らかとなっている。各種の阻害剤を用いた解析の結果、mTOR経路が抑制性サイトカインであるIL-10の発現を介してIL-12生産を負に制御するのに対し、GSK3経路ならびにp38 MAPK 経路はIL-12の遺伝子発現を直接正に制御していることが明らかとなった。PI3K経路は、mTOR経路・GSK3経路非依存的にp38 MAPK 経路の活性を負に制御することから、これら3つのシグナル伝達経路を介して、複合的にIL-12生産制御に関わることが示された。PI3K経路はRhoファミリー分子を介してp38 MAPKの活性化を正に制御するものと考えられているが、われわれのデータは、樹状細胞に全く新規のMAPK活性制御機構経路が存在することを強く示唆している。
|