研究概要 |
T細胞が抗原提示細胞から抗原を提示される際、2つの細胞の接触面に「免疫シナプス」と呼ばれる構造が形成される。免疫シナプスは、各々の細胞表面分子が同心円状に再配置することで構築され、T細胞受容体(TCR)が集まる中心部位c-SMAC(central-supra molecular activation cluster)と、接着分子が集まる周辺部位p-SMAC(peripheral-SMAC)から構成される。われわれは、抗原提示細胞をガラス平面上に疑似したプレイナーメンブレン法を用いて、T細胞がプレイナーメンブレンと接触する際、TCR数十個からなる集合体(TCRマイクロクラスター)が形成され、それらが接触面の中央に集まりc-SMACを形成することを観察した。またTCRマイクロクラスターにはTCR下流の活性化シグナル伝達分子が会合することを明らかにし、TCRマイクロクラスターというシグナルソームが、細胞質から細胞膜、p-SMACからc-SMACへと場所を変化させながらT細胞活性化の惹起と維持を担っていることを示唆した(Nat.Immunol.:6,1253,2005)。一方、T細胞の完全な活性化やその維持には、TCRからの刺激だけでなく、CD28などの副刺激分子からのシグナルが必要であることが知れられているが、副刺激分子下流のシグナル伝達系はTCR下流のシグナル伝達系と重なる部分が多く、明らかな違いが分かっていない。副刺激分子が免疫シナプスの何処で働くかを解析することは、T細胞活性化におけるその役割を明らかにするために重要である。CD28のリガンドであるCD80分子をプレイナーメンブレン法に導入し、CD28の挙動を解析した結果、活性化が惹起される初期には、CD28はTCRマイクロクラスターに共局在する一方、活性化の維持にはc-SMACから解離し、c-SMAC周囲にクラスターを形成し、さらにPhosphoprotein kiase theta(PKCθ)をリクルートすることが明らかとなった。一方、同じCD80をリガンドとする負の補助刺激分子CTLA-4は、T細胞の活性化と共に発現し、CD28の代わりにc-SMACの周囲にクラスターを形成し、CD28クラスター形成を妨げることが分かった。このことは、TCRのみならず副刺激分子もマイクロクラスーと免疫シナプスを介して空間的時間的制御の下に正負の調節を行う可能性を示唆している。
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