内蔵リューシュマニア症は、Leishmania donovaniによって起こる熱帯伝染病で、自然寛解はほとんどなく放置すると死に至る。五価アンチモンによる治療が有効であるが、有効なワクチンはなく、薬剤耐性原虫の増加・媒介昆虫の生息域拡大など、先進国においても重大な問題となりつつある。病態メカニズムの理解に基づいた新規治療法の開発が望まれるが、宿主免疫機構が感染の進行を阻止できない理由は未だ不明である。 本研究は、L.donovani感染マウスモデルを用いて、慢性感染に伴う炎症によるリンパ組織破壊と免疫応答障害機構を分子レベルで明らかにするため、感染臓器のマクロファージとストローマ細胞を、それぞれ感染細胞と非感染細胞に分離精製し、リンパ組織構築および免疫応答に影響を及ぼす宿主遺伝子発現変化をそれぞれの細胞間で、1)原虫感染によって誘導された遺伝子発現と、2)感染ではなく炎症によって誘導された遺伝子発現とに区別して、候補分子を同定する事を目的とする。 感染細胞と非感染細胞の分離に必要なGFP導入L.donovaniは海外協力研究者であるヨーク大学Paul Kaye教授により作製さた。マウスに感染させたところ、親株と異なり、脾臓マクロファージへの感染は見られるものの、脾臓ストローマ細胞に対する感染は認められなかった。そこで、親株LV9 L.donovani感染脾臓と、GFP-LV9感染脾臓より、ストローマ細胞を分離してmRNAを抽出して遺伝子発現を比較した所、親株L.donovani感染群においてのみ、T細胞および樹状細胞を遊走させ、T細胞免疫応答に関与しているケモカインCCL19およびCCL21産生の減少が認められた。これらより、L.donovaniのストローマ細胞直接感染により樹状細胞とT細胞の相互作用に必要なケモカインの産生を抑制し、免疫応答を抑制していることが示唆された。
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