研究概要 |
平成20年度に開発した転倒アセスメントツール(感度81.3%,特異度80.7%)を電子カルテ上に搭載し、患者の入院時のアセスメントに使用した。2007年度と2008年度の各1年間の転倒報告件数、転倒による受傷報告件数と、受傷患者の治療に要した診療報酬およびアセスメントに要した費用を算出し比較した。 その結果、年間入院患者数は導入前14709人、導入後13641人であった。年間転倒報告件数は、導入前168件、導入後241件であり、転倒による受傷者報告件数は、導入前23件、導入後20件であった。転倒防止率は導入前0.989、導入後0.981であり、転倒傷害防止率は導入前0.998、導入後0.998であった。治療内容は検査・外用薬・テープ固定・縫合・コルセット・シーネ固定が導入前16件、導入後18件、大腿骨頭置換術等手術が導入前7件、導入後2件であった。アセスメント用紙の紙代は患者1人あたり4.5円であった。システムエンジニアがアセスメントツールの電子化作業に要した労務費は患者1人あたり14.7円であった。看護師労務費は、アセスメント用紙が211円、ITアセスメントツール204円であった。アセスメント1人あたりの費用は、導入前215円、導入後219円であった。治療に要した1人あたり平均診療報酬は、導入前621,048円、導入後516,753円であり、年合計では、導入前1428万円、導入後1033万円であった。 すなわち、転倒防止率や転倒傷害防止率に有意差はなかったが、転倒による骨折で手術を受ける患者が減ったため、診療報酬は導入後に導入前よりも1人あたり10万円、年間395万円削減できた。 IT化した転倒リスクアセスメントツールを活用した事例の費用と効果および便益を検討した報告は世界的にほとんどみられないため、その報告事例として本研究の結果は国際的にみても意義あるものと考えられる。
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