新薬の現治療法からの増分費用効果比が一定額以下であれば医療保険の対象として認めるという考え方が欧米ではあるが、「一定額」をどのように決めるかが問題である。この一定額=閾値を決める試みとして、我が国の薬価制度の下での新薬の薬価算定額に注目した。 平成9年6月~平成21年3月に薬価基準に収載された新医薬品423成分のうち類似薬効比較方式で算定され、比較試験で対照薬に対し有意に有効であり、薬価が増額されている73成分を対象とした。これらについて、審査報告書、臨床試験の論文等から臨床効果等の情報を集めた。新薬の薬価収載時の薬価と、比較試験を行った薬剤のその時の薬価を用いた。比較試験の投与日数での薬価差を求め、これと臨床効果の差から増分費用効果比を求めた。また、新医薬品の薬価の妥当性に対する一般消費者の評価を得るため、一般消費者600名を対象にインターネット調査を行った。 増分費用効果比は120円~1900万円と大きくばらついた。閾値の設定は疾患をある程度グループ化しなければ実用には適さないことから、疾患領域別、治療充足度別、効用値別に分類を試みた。9つに分けた疾患領域別では、閾値は、感覚器疾患の11000円から、感染症の120万円まで大きく異なった。最も可能性があるのは、薬剤の治療充足度別の分類であり、充足度が小さくなるほど増分費用効果比は高くなる傾向にあり現行の薬価算定制度下で使用しても大きな矛盾は生じないと考えられた。今回の調査により、増分費用効果比に非常に大きなバラツキがあることが明らかとなった。現行の薬価算定方式では費用対効果は必ずしも反映されていないことが示された。次に薬価の妥当性については、一部の疾患を除き現行の薬価は半数以上の一般消費者に受け入れられていた。消費者が効果は高いが価格が高いと考える統合失調症、アレルギー性鼻炎に関しては価格の見直しが必要であると思われた。
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