本研究では、病院勤務医が長時間かつハイリスクな労働環境の下で、いわば逃げ出すように開業する要因を支献調査に基づき、因果構造モデルとして完成させ(岡崎女子短期大学研究紀要第41号研究ノート参照)、その要因モデルを実証的に検証するため、平成19年度中に開業を希望する70名の勤務医からアンケートデータを得た。その中間的分析結果では、勤務医が開業する動機として示した30項目のうち、「もっと自分の裁量で仕事がしたい」、「もっと働きに応じた収入を得たい」、「キャリア(これまでの経験)を生かした仕事がしたい」が1位から3位の強い理由として示された。また、文献調査で得られた因果モデルの中で、開業動機の主因であるとした.「長時間労働」と「ハイリスク」の労働環境からの逃避については、「労働時間を短くしたい」が24位、「医療リスクの緊張から開放されたい」が12位と、必ずしも強い理自として回答されなかった。このことから、病院における医師退職防止施策での「労働時間の短縮」や「医療リスクの軽減」は衛生要因と捉え、これらの導入によって、直ちに退職防止の歯止めが可能とせずに、むしろ、裁量権の拡大などエンパワメントや、開業医との所得格差の是正(給与水準の見直し)や人事評価制度の導入などの金銭的インセンティブ、地域における病院機能の分化、集約化による医師のキャリア(シーズ)と患煮(ニーズ)とのマッチングが勤機付け要因として有効ではないかとする中間的な結論を得た。
|