本研究では、いわゆる「立ち去り型サボタージュ」と揶揄される病院勤務医の開業による退職要因を文献調査に基づき、因果構造モデルとして完成させ、その要因モデルを実証的に検証するため、平成19年〜20年度にかけて開業を希望する188名の勤務医から開業動機アンケートのデータを得た。その結果、開業動機は、「もつと自分の裁量で仕事がしたい」、「もっと働きに応じた収入を得たい」、「開業に適した資産や資金を持っている」、「親の面倒をみる必要がある」、「家族が開業を望んでいる」とする勤務医ほど開業動機が強い(開業志向である)傾向が確認された。対して、文献調査で主因とされた「長時間労働」と「ハイリスク」の労働環境からの逃避については、「労働時間を短くしたい」、「医療リスクの緊張から開放されたい」、「単独で広範囲な医療を迫られたくない」と思う勤務医が必ずしも開業動機が強い(開業志向である)傾向にはない結果から支持されなかった。このことから、開業退職防止マネジメントは、開業の動機を軽減する「院内の軽減裁量権の拡大などエンパワメント」や、「開業医との所得格差の是正(給与水準や手当ての見直し)や人事評価制度の導入などの金銭的インセンティブ」、「介護や育児休暇の制度充実や時短など多様な勤務形態の整備」が効果的であることが示唆された。
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