本研究は、免疫・炎症作用を司る蛋白分子群ネットワークの産生制御の中心に位置するp38MAPK(p38)に着目し、p38の活性を肺胞特異的に上昇もしくは低下させるトランスジェニック(TG)マウスを作出し、それらTGマウスを用いて、未だ有効な治療法のない炎症性肺疾患の発症分子機構を解明し、新たな治療法の探索を目的とした。 <テトラサイクリン誘導性肺特異的p38活性上昇マウスの作出>(1)テトラサイクリン(Tet)受容体遺伝子をSP-Cのプロモーターを用いて肺胞特異的に導入したマウス(SP-C-rtTA/TG)(2)Tet受容体応答性プロモーター(TRE)遺伝子の下流にMKK6-c.a. (p38の活性亢進を促す変異体遺伝子:p38を特異的に活性化するリン酸化酵素であるMKK6を点変異により常時活性型としたもの)を配したトランスジーンを導入したマウス(TRE-MKK6-c.a./TG)を作出する。この両者を掛け合せたマウスにドキシサイクリン(Dox:Tetの誘導体)を溶解した飲水を与えることで、肺胞特異的に、Dox濃度依存的にMKK6-c.a.トランスジーン発現量のコントロールが可能となる。そこで、それぞれのTGマウスの作出を試み、すでに5ラインのSP-C-rtTA/TGを得たが、TRE-MKK6-c.a.遺伝子の単独導入ではTGの作出に至らなかった。その原因として、MKK6-c.a.遺伝子のleakageが発生段階に影響し胎生致死を促すことが想定されたため、TRE-MKK6-c.a.遺伝子の受精卵への導入時にTREサイレンサー(tTS)遺伝子を共導入し、TREの自発的なバッググランド活性を抑制しMKK6-c.aのleakageを阻害することを試みた(TRE-MKK6-c.a./tTS/TGの作出)。この方法により、1ラインのTRE-MKK6-c.a./tTS/TGを得ることが出来た。一方、すでに作出していた肺特異的p38活性常時低下TGマウスを用いた解析から、肺胞内p38活性を抑えることで薬物による間質性肺炎誘導に病理的・機能的に抵抗性を示すことを確認した。今後、これらのマウスを用いて慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎の治療に通じる分子基盤を構築していきたい。本研究は社会貢献に直結すると期待できる。
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