本研究では、臨床検査に用いられるモノクローナル抗体を植物中において大量生産する事を目的としている。この発現系の利点は、生産の低コスト性と安全性にある。モノクローナル抗体を発現する遺伝子組換え植物株を作出すれば、そめ種子を畑に播くだけで基本的に太陽の光と雨水だけで植物は生長し、ハイブリドーマの培養に使われる高価なウシ胎児血清や、無菌管理された大型の培養装置などが不要になる。無菌培養技術も必要なく、一般的な農家の技術で良い。この事により、きわめて安全なモノクローナル抗体を、きわめて低いコスト(従来の1/100〜1/1000)で生産できると期待されている。 我々は手始めとして、腫瘍マーカー検査として頻用されているPIVKA-IIおよびAFPのモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作成し、19年度中にそのグロブリンcDNAをクローン化する計画とした。まず、作成した抗PIVKA-IIモノクローナル抗体産生ハイブリドーマがら得られる抗体の特異性および力価を測定したところ、非常に高い特異性を有する事が確認されたが、力価がそれほど高くなく、実用化されているモノクローナル抗体と比して1/10程度であった。われわれは、このハイブリドーマからγグロブリンH鎖、L鎖のcDNAをクローン化している。それと平行して臨床応用レベルに耐える力化と特異性を持つ新規ハイブリドーマを作成中である。 また、本研究のもう一つの目的は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)よりも酵素化学的性能の高い日本ワサビペルオキシダーゼのcDNAをクローン化し、それを遺伝子レベルでグロブリンcDNAと連結して、2次抗体の不要な抗体分子を作成する事である。19年度の研究により、日本ワサビペルオキシダーゼcDNAのクローン化に成功し、現在、その大腸菌中における発現系を構築している。20年度中にはグロブリンcDNAをペルオキシダーゼcDNAを連結して、植物中における発現を試みる。
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