研究概要 |
生体内には極微量で生理作用を発揮する低分子化合物(ハプテン)が数多く存在する.これらの体液中レベルの測定は臨床化学において重要であるが,高い感度を得ることが難しい.そこで,「ナノ抗体」,すなわち,シングルドメイン抗体(sdAb)を新しい分子認識単位として導入し,ハプテンの高感度モニタリングシステムの構築を検討した.SdAbとは,ラクダ由来の抗体のH鎖可変部ドメイン(V_HH)あるいはそれを模倣した変異体で,抗原結合活性を保持する最小の抗体フラグメントである. 昨年度,エストラジオール(E_2)に対するマウスモノクローナル抗体のV_H遺伝子をクローニングして大腸菌内で発現させて,マウスV_Hドメインそのものである野生型sdAb(V_H)を調製し,E_2-ウシ血清アルブミン(BSA)結合体に親和性を示すことを確認した.今年度は,まず,マウス抗ジゴキシン(Dig)抗体のV_H遺伝子からsdAb(V_H)を作製したが,Digに対して明瞭な結合能を示さず,マウスV_HをsdAb化するうえで,その適否は抗体枠組み配列(FR)の構造に依存することが示唆された.また,上記抗E_2抗体のV_L遺伝子から構築したsdAb(V_L)も,sdAb(V_H)より弱いもののE_2基への結合能を示した.つぎに,野生型抗E_2-sdAb(V_H)の結合力と大腸菌での発現量を改善するために,そのFRにラクダV_HHに特有のアミノ酸を導入した.その結果,発現量が400倍も向上した変異sdAbを見出したが,E_2基への結合能はむしろ低下していた.マウスV_Hに由来する抗ハプテンsdAbの調製としては本研究が初めての報告であるが,分析試薬として実用的な発現効率とハプテン結合能を併せ持つ変異体の創製が今後の課題である.
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