研究概要 |
アスベストによる中皮腫や肺がんに代表されるように,繊維、粒子状物質による健康障害は重大な社会問題であり,発がんなどの呼吸器疾患のリスク評価法の開発が緊急に必要である。アスベストによる発がんには慢性炎症が重要な役割を果たすと考えられる。8-ニトログアニンとは,炎症条件下で生成される変異誘発性ニトロ化DNA損傷塩基である。研究代表者らは,種々の臨床検体や動物モデルで8-ニトログアニンが炎症関連発がんの過程で生成されることを世界に先駆けて明らかにしてきた。本年度は,アスベストを気管内投与したマウスの肺組織の免疫組織染色を行い,気道上皮細胞で8-ニトログアニンが生成され,発がん性の強いクロシドライトの方がクリソタイルより低用量で有意に強くDNAを損傷し,アスベストの発がん性と一致するという極めて注目すべき知見を明らかにした(論文作成中)。さらに,炎症関連発がんに関して以下の成果を得た。ヒトパピローマウイルス感染による子宮頸部異形成の生検標本では,8-ニトログアニン生成が異形成の程度に従い有意に増加した(Cancer Sci 2007)。中国東南部のEBウイルス感染患者では,8-ニトログアニン生成が咽頭炎から上咽頭癌に至る過程で有意に強くなった(Int.J.Cancer in press)。軟部肉腫患者の腫瘍組織におけるロニトログアニン生成が強い群では生存期間が有意に短縮することを明らかにした(Cancer Sci.2007,0ncol.Rep.2007)。以上の結果から,8-ニトログアニンは病変部位に特異的もに生成され,その強さは前癌状態からがんの発生、進展に至る過程を反映するという点が極めて意義深い。したがって,8-ニトログアニンは繊維、粒子状物質による炎症関連発がんリスクを評価できる新規バイオマーカーとして応用出来る可能性がある。
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