本研究では、カビはアトピー性皮膚炎の発症原因物質ではなく、増悪因子ではないかと考え、モデルマウスを用いて検討した。20年度は、アトピー性皮膚炎患部にカビが接触したときの影響を見た。ダニ抗原を頻回投与し、NC/Ngaマウス耳介にアトピー性皮膚炎を発症させた。その後、5μg/mouseのススカビ(アルテルナリア)またはカンジダ抽出部を炎症部位に塗布した。その結果、ススカビを塗布した群に症状の増悪を認めた。またカンジダを塗布した群も有意差を認めなかったものの増悪傾向を示した。血清中抗原特異的IgG1抗体産生も症状の結果と同様の傾向を示した。皮下組織中の好酸球数は、カビを塗布したどちらの群も増加していた。一方、総IgE値はアトピー性皮膚炎を誘発した群の値よりも減じ、皮下組織中マスト細胞数もススカビ塗布群でアトピー性皮膚炎誘発群に比し減少した。組織中のサイトカイン産生を測定した結果、Th2サイトカインのIL-13産生は、抗原特異的IgG1値と同様の傾向を示した。一方、IL-18産生は総IgE値と同様の傾向を示した。IL-18はIgE産生を増強することが知られており、このサイトカイン産生の低下によりIgE産生が低下したことが示唆される。以上の結果から、カビを患部に塗布すると、Th2サイトカイン産生、IgG1抗体産生、好酸球浸潤が強まり、さらにIgG1抗体と結合した好酸球数から放出される炎症惹起物質により症状が増悪したと考えられる。この増悪にはIgEやマスト細胞は関与していないことが示唆された。カビの影響は、カンジダよりもススカビの方が強く、また短期吸入よりも患部に接触する方が、影響が強かった。本研究の結果により、カビがアトピー性皮膚炎を増悪する環境要因であることが示唆された。
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