本研究では、研究代表者および研究分担者が従事する日本人を対象とした大規模な疫学研究と、新たに形成する短期間のコホート研究により、職業階層による健康格差がわが国の労働者において観察されるのか、その際、職業階層と健康問題の関係を職業性ストレスが説明し得るのか、を循環器疾患罹患、全死因、死因別死亡および抑うつをアウトカムとした前向きの解析によって明らかにすることを目的としている。 最終年度は、2つの製造業の労働者1546人を1年間追跡して職位、教育歴、収入といった社会経済的要因と、抑うつ症状の新規発症の関連を観察した。次に、職業性ストレスが社会経済的要因と抑うつ症状発現のの関連にどのように寄与しているのかについて検証した。低学歴の労働者に抑うつ症状の新規出現のリスク上昇が観察されたが、心理社会的仕事の特徴を調整後は有意ではなくなった。低職位、低収入は抑うつ症状の発症を予測しなかった。一方で、心理社会的仕事の特徴は、社会経済的指標とは無関係に抑うつ症状発症のリスクを上昇させていた。心理社会的仕事の特徴は、必ずしも社会経済的始業の低い集団で頻度が多いわけではなく、その媒介効果(心理社会的仕事の特徴を調整することにより健康の職業階層間格差が減少する)は12回のうち1回の検定で観察されただけであった。一方、修飾効果(心理社会的仕事の特徴の影響は職業階層の低い集団でより大きい)は12回のうち4回の検証でポジティブであった。 既存のコホートでは、職位が低い男性労働者に劣悪な心理社会的仕事の特徴(職業性ストレス)が加わることにより、脳血管疾患罹患のリスクが上昇することを確認した。
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