昨年度の研究で、無機ヒ素が免疫系細胞においてE2Fファミリータンパクの機能を変化させることが明らかとなった。そこでE2Fファミリータンパクの機能調節を行うことが知られているポケットプロテインに着目し、無機ヒ素の作用メカニズムを検討した。 リンパ球細胞株を無機ヒ素存在下培養すると、細胞周期進行に関与するE2F標的遺伝子群の転写が抑制された。ポケットプロテインのpRB、p107、p130の存在量を検討した結果、無機ヒ素によってp130の量が大きく増加することが明らかとなった。p130mRNA量は変化しないことから、p130の増加はタンパクレベルで起こることが示された。p130はリン酸化につづいてユビキチン化を受け、プロテアソームで分解される。プロテアソーム阻害剤を用いた実験によって、対照群の細胞ではp130がプロテアソーム分解を受けているのに対して、無機ヒ素存在下ではプロテアソーム分解は低く、無機ヒ素存在下でp130が低リン酸化・低ユビキチン化状態にあることが示唆された。また免疫沈降実験によって、E2F標的遺伝子のプロモーター領域ではE2F4/p130/HDAC転写抑制複合体の結合が増加していることが明らかとなった。 以上の結果から、無機ヒ素が免疫細胞においてp130を安定化し、E2F4/p130/HDAC転写抑制複合体の形成を促進することによって細胞周期関連遺伝子の発現を抑制し、細胞増殖を抑制するというユニークな作用メカニズムが示された。
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