研究概要 |
PCBやダイオキシンは甲状腺ホルモンを撹乱し,脳の分化・発達を阻害する.このことから,ADHDなどの発達障害の一因ではないかと考えられている.そこで妊娠ラットに甲状腺ホルモン阻害剤メチマゾールを投与し,生まれた仔ラットの衝動性をオペラント条件付けのDRL20秒強化スケジュールで,注意能力をプレパルス・インヒビション(PPI)テストで検討した.さらにMRIを用いて脳と海馬の容量を測定した。 実験の結果,甲状腺ホルモン阻害ラットは,(1)20秒間待って反応することを学習しなかった。このことから,行動を抑制する能力が低下していたと考えられる。これはADHDに見られる衝動性(行動を抑えられない、我慢できない)と類似した行動障害といえる。(2)プレパルスが75dBではPPIは生じなかった。しかしプレパルスが85dBと95dBの時はPPIが生じた。したがって,甲状腺ホルモン阻害によって注意障害は起こらないといえる。感覚入力系の障害(例えば,聴覚ニューロンの興奮閾値が上昇した)のため,75dBではPPIが起こらなかったと考えられる。(3)甲状腺ホルモン阻害ラットは驚愕刺激に対して過剰な反応を示した.これはパニック障害を起こしやすくなっていることを示している。(4)脳と海馬の容量が減少した。体重も減少したことから,甲状腺ホルモン阻害によって成長遅滞が起こったと考えられる。しかし脳や海馬に気質的な損傷は認められなかった。
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