「呼び寄せ介護」をめぐる課題を把握するうえで、「呼び寄せ」が生じる背景要因の把握が重要と考えた。そこで「呼び寄せ」による転出が多いといわれる大規模別荘分譲地を抱える自治体を対象に追跡調査を実施した。平成20年度にも東京都老人総合研究所(当時)が平成9年に実施した調査の有効回答者241名を対象に追跡調査を実施している。しかし回収率が約6割弱と低く、死亡か転出か判明できないケースが全体の約3割みられたため、結果に偏りが生じた可能性が考えられた。そこで今年度は異なる調査手法により再度検討を行った。具体的には、同じ241名全員について自治体の協力を得て1997年8月以降の居住継続・死亡および転出を月単位で12年間把握した。 1997年の調査時平均年齢は72歳、男性120名であった。12年後の居住継続割合はおよそ4割であり、昨年度の調査と同様であった。転出と死亡はいずれも約3割みられた。転出先は首都圏が約6割を占めた。男女別に解析すると、男性では死亡が多く、女性では転出が多いという違いがみられた。女性では男性と比較して有意に転出リスクが高く、居住継続が困難な可能性が示唆された。 5年未満の転出をイベント発生とし、死亡および居住継続を打ち切りとする生存分析を行ったところ、「女性」の他、1997年調査時点で「同居子なし」「別居子の支援が多い」「見晴らしの良い環境」「温暖でない環境」「近隣に助け合う人が多くない環境」ほど転出リスクが高かった。データの制約上本研究では「呼び寄せ」転居に限定できなかったが、居住中止の背景に別居子との関係の良好さや地域住民との支援関係の希薄さがある可能性が示唆された。高齢期の居住政策を考えるうえで、今後「呼び寄せ」後の高齢者のニーズ把握や、より一般化可能性の高い標本での居住継続とその関連要因の検討が重要と考えられる。
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