わが国の代表的なコホート研究であるNIPPON DATAのデータを用いて、男性における喫煙状況別の平均余命と障害なし平均余命(Disability Free Life Expectancy、以下DFLE)を算出し、その結果を比較した。喫煙状況別の年齢階級別死亡率の算定にはNIPPON DATA80を用い40歳から80歳まで5歳刻みで、喫煙状況別にみた年齢階級別自立割合の算定にはNIPPON DATA90を用い40歳から80歳まで10歳刻みで算定した。平均余命は簡易生命表法(Chiangの方法)を、健康余命はSullivan法を用いた。その結果、60歳平均余命は非喫煙群で23.8年、喫煙経験群(現在喫煙+禁煙)で21.0年と2.8年の差が見られた、これをDFLEでみると60歳では非喫煙群21.0年、喫煙経験群では19.7年となり1.3年の差であった。このような非喫煙群と喫煙経験群の傾向は70歳平均余命(非喫煙:14.9年、喫煙経験:13.3年)、70歳DFLE(非喫煙:13.7年、喫煙経験:11.9年)、80歳平均余命(非喫煙:7.7年、喫煙経験:7.5年)、80歳DFLE(非喫煙:6.2年、喫煙経験:6.4年)でもほぼ同様で、喫煙経験による平均余命、DFLEの減少傾向がみられた。これらの差は他の先進諸国の同種の研究と比較すると小さかった。その理由として、喫煙情報が追跡開始当時のものであり喫煙の年次変化を考慮していない、当時日本で一般的であった間接喫煙の非喫煙に対する影響、さらに日本を含むアジア諸国では肺がん死亡率で高いこと、などが考えられた。今回、喫煙の人間集団における害を、健康寿命という生命の質という観点も加味した指標で定量的に示した点では意義が高く、重要な研究成果を示したといえる。
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