昨年度までに実施した1985-2004年の性年齢階級別自殺者数を基にしたベイズ型年齢-時代-コホート分析に、2007年度までのデータを追加して再分析し、都道府県別の分析結果にクラスター分析を適用して、自殺率の年次推移に及ぼした年齢、時代、世代影響の地域特徴を類型化した。その結果、年齢効果、時代効果、コホート効果の事後推計値の変化パターンの類型化より、人口90万人以上の大都市を含む都道府県(北海道、宮城、千葉、東京、神奈川、埼玉、愛知、京都、大阪、兵庫、広島、福岡)では、各効果の変化パターンが同一クラスターに分類でき類似性を示した。男性の年齢効果は5つのクラスターに分類され、大都市を含む都道府県は50歳代後半にピークを示し、以降の年齢で低減するパターンを特徴とし、時代効果は3つに分類され、大都市を含む都道府県は1998年に急増して、以降横ばいとなる特徴を示した。また、コホート効果は3つに分類され、大都市を含む都道府県は1953年生まれのコホート付近を変曲点として低減から増大に転ずる特徴を示した。性差は認められたが、女性のクラスター分析の結果からも、同様に大都市を含む都道府県に類似した自殺動向への3効果の共通した影響が明らかになった。本研究の結論として、近年の日本人の自殺動向において、年齢、時代、世代の視点から高リスク集団を捉えると、高齢者での加齢に伴った自殺リスクの増大に加え、50歳台の中高年男性の自殺リスクが顕著に高いこと、時代効果として1998年のアジア通貨危機以降の経済低迷、雇用不安定期の自殺リスクの増大傾向が持続していること、また高リスクな出生コホートとして、男性では1926年生まれ以降、女性では1956年生まれ以降の集団が把握された。また、男女ともに大都市圏を含む都道府県に類似した自殺リスクに対する3要因の共通した影響がみられることが示され、近年の自殺率の上昇に大都市域を含む地域特性が関与していることが示唆された。
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