本研究は、わが国で近年観察された出生性比の低下傾向の原因を明らかにすることを目的とする。これまでに公表されている研究成果の整理と人口動態統計の観察を通して、わが国で近年観察された出生性比の低下傾向の原因を検討する。 1)国内外でこれまでに公表されている研究成果(論文)の収集・整理 パソコンによる検索システム(MEDLINE)を利用して国内外の文献検索を行い、資料収集と整理を行った。本年度は、主として、「出生性比の変動と関連する要因について今日までに得られている知見」を整理した。出生性比の低下傾向は、オランダ、デンマーク、カナダ、アメリカなど多くの欧米諸国においても観察されていた。焼却場の排気ガスによる大気汚染のひどい地域ほど出生性比が低い、出生性比の低下が共通して工業国に認められるなどの知見が得られており、出生性比の低下傾向の原因として近年の様々な環境汚染(メチル水銀、農薬、ダイオキシン等)の影響が仮説に上げられていた。一方、アジア諸国(中国、韓国、台湾等)では、1980年代後半以降、異常に高い出生性比が観察されていた。これは、当該国民の強い「男児選好」を背景とした人為的性選択によるものであった。 2)人口動態統計を用いた出生性比の観察 1970年頃以降の出生性比の低下傾向の原因を検討するために、月別の出生性比を観察した。1947〜2005年の人口動態統計から各年各月の出生性比を求め、さらに月別に9年間の出生性比の移動平均を求めた。出生性比に季節格差が認められ、その格差が1970年頃を境にその前後で変化したことが明らかになった。その現象は、虚偽の出生日の届出や1970年頃以降の出生性比(全体)の低下傾向だけで説明できるものではなかった。
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