研究概要 |
妊娠期の喫煙曝露は胎盤剥離,前置胎盤といった合併症あるいは流早産や子宮内胎児発育遅延(IUGR)などの高リスク要因であるが,胎児発育への影響には個体差がみられることから,2002年に立ち上げた前向きコホート研究に登録している妊娠23〜35週の妊婦を対象として化学物質に対する遺伝的感受性素因と環境要因との交互作用が胎児発育に及ぼす影響を検討した。 質問紙調査で把握している社会経済的状況,栄養状態,飲酒,喫煙などの生活習慣および診療録から収集した分娩,出生時の母児の状態,在胎週数,新生児体格(体重,身長,胸囲,頭囲)等の記録を総合的に解析した。インフォームドコンセントを経て得られた末梢血中の白血球からDNAを抽出し,Real-time PCR装置を用いたTaqMan法でたばこ煙に含まれる化学物質のうちニコチンやニトロサミン類などの活性に関与する酵素の遺伝子多型を解析した。NAD(P)H:quinone oxidoreductase 1 (NQO1)遺伝子(C>T,Pro187Ser)および Cytochrome P450 2E1(CYP2E1)遺伝子(G>C,CYP2E1*5B)の多型について解析を行ったところ,喫煙妊婦ではNQO1遺伝子C/C型で出生時体重,身長および頭囲が有意に減少し,また,CYP2E1遺伝子G/G型では出生時体重に有意な減少が認められた。一方,非喫煙妊婦および妊娠初期で禁煙した妊婦においても遺伝子多型による有意な関連は認められなかったことから,妊娠中の禁煙指導の重要性が示唆された。今回解析したたばこ特異的ニトロサミン類は女性の方が男性に比べて感受性が高いという実験結果が報告されており,この物質はわが国において非喫煙者や女性に多い肺腺がん発症との関連が示唆されている発がん物質である。原因として受動喫煙曝露が関与している可能性が考えられ,今後,受動喫煙曝露と母親の遺伝的感受性素因による交互作用が胎児発育に及ぼす影響についても検討する。
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