研究概要 |
たばこ煙中化学物質に対する遺伝的感受性素因と環境要因との交互作用がヒト胎児発育に及ぼす影響を解明することを日的として, 前向きコホート研究に登録している妊娠23〜35週の妊婦を対象に検討した。ベースライン調査として質問紙から社会経済的状況, 栄養状態, 飲酒, 喫煙などの生活習慣および診療録から分娩, 出生時の母児の状態, 在胎週数, 出生時体格などのデータを収集して総合的に解析した。たばこ煙中に含まれる多環芳香族炭化水素やニトロソアミン類などは遺伝毒性や発がん性を持つ物質でDNA内に付加体を形成し, DNA付加体量は出生時体重, 身長や頭囲と反比例することが報告されている。末梢血中の白血球からDNAを抽出してDNA修復に関与する酵素のうち, Excision repair cross-complementing rodent repair deficiency, complemelltation group1(ERCC1), O^6-methylguanine-DNA methyltransferase (MGMT), X-ray repair complementing defective repair in Chinese hamster cells 1(XRCC1), X-ray repair complelnenting defective repair in Chinese hamster cells3(XRCC3)遺伝子の多型をReal-time PCR装置を用いたTaqMan法で解析した。ニトロソアミン類代謝に関与するMGMT遺伝子多型では非喫煙妊婦のCC型と比較して喫煙妊婦のCT/TT型で, 出生時体重が有意に低下した。さらに, NQO1遺伝子とMFMT遺伝子の多型を組み合わせて解析を行ったところ, 喫煙妊婦のNQO1遺伝子多型がCC型でMFMT遺伝子多型がCT/TT型の場合には出生時体重の低下がさらに大きくなった。一方, 非喫煙妊婦では遺伝子多型による有意な関連は認められず, 喫煙による胎児発育への影響には遺伝-環境交互作用が関与していることが示唆された。今後はたばこ煙中化学物質の代謝に関与する他の遺伝子多型についても解析し, 遺伝-環境交互作用を総合的に検討して遺伝的ハイリスク群の存在を解明する。低出生体重は成人期における高血圧, 糖尿病, 循環器疾患等のリスクを高める危険因子の一つであると考えられており, ハイリスク群に効果的な予防対策を構築することは, 妊娠時および出生時におけるリスクの減少のみならず, 乳幼児期以降の疾患の予防, さらには, 成人期における生活習慣病発症の予防へ貢献する可能性がある。
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