研究概要 |
本研究は複雑性悲嘆の中でもしばしば治療が困難な暴力的死別遺族(殺人、事故、自殺)を対象として、PTSDを伴う複雑性悲嘆に焦点を当てた認知行動療法(週1回90分、標準セッション数15回)の有用性検証を目的とした。昨年度までにエントリーした症例は女性15名(殺人7,事故6,自殺2)であり、そのうち13名が治療を完了した(中断2例)。完了者は3ヶ月、6ヶ月、1年後、2年後の追跡調査を実施し、本年度は1年後調査までを終了し結果を解析した(repeated ANOVA)。症状評価は、PTSD診断面接尺度(CAPS)、自記式外傷性ストレス症状尺度(IES-R)、抑うつ尺度(CES-D)、全般健康尺度(GHQ-28)、複雑性悲嘆尺度(ICG)を使用した。 《ITT分析結果(N=15,LOCF法により中断例も含む)》 CAPS:F(4,70)=5.38,p<.001;IES-R:F(4,70)=3.47,p<.05;CES-D:F(4,70)=1.41,p=.2ns;GHQ-28:F(4,70)=2.37,p=.06near significant ; ICG:F(4,70)=3.03,p<.05 《完了者分析(n=13)》 CAPS:F(4,60)=12.74,p<.0001;IES-R:F(4,60)=12.43,p<.0001;CES-D:F(4,60)=3.03,p<.05;GHQ-28:F(4,60)=3.91,p<.01;ICG:F(4,60)=6.57,p<.001 Tukey法によるペアごとの検定では、ITTでのCES-Dを除き、すべての尺度において治療開始前と終了後で有意な得点減少が得られ改善を認めた。さらに終了後と1年後時点に得点の有意差はなく、改善は維持されていた。以上より、PTSDを伴う複雑性悲嘆に対して、本治療プログラムは有用であり、PTSD、複雑性悲嘆とも改善が得られ、その効果は治療1年後も維持されていることを明らかにできた。本結果はアジア圏からの初報告として国際誌に投稿予定である.
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