研究課題
医薬品は人の社会において、必不可決な化学物質である。しかし、近年欧米を中心に、医薬品のもつ薬理作用を悪用する犯罪が激増している。諸外国では、国家機関が警告をおこない、"Date Rape Drug"と呼ばれている。欧米で主に悪用される医薬品は、ベンゾジアゼピン系薬物、非ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤および麻酔薬であり、アルコール飲料と併用されるにとが多い。我国においても、医薬品の不正使用による準強姦事件において、ベンゾジアゼピン系薬物にアルコールが併用された場合、高頻度に前向健忘が生じ、被害者に被害時の記憶が無く、一見被害者が大胆な行動をとるという事実を、公判証人又は鑑定人として、医学・薬理学的に司法に対して説明する機会がしばしばある。医薬品には、目的外使用である不正使用時の客観的データは存在しない。本研究は、医薬品が不正使用された場合の各種データを整備し、裁判における犯罪被害者の人権擁護、犯罪防止啓蒙活動に役立つ事を目的としている。昨年に続き、各種飲料(お湯及びアルコール飲料)に薬剤を混入した場合の溶解度を、245nmの吸光度変化を目安として評価し、データの蓄積を継続した。試験薬物は、一般に催眠作用を持ち、かつ日常的な臨床現場で繁用されている薬剤で、製造元の異なるそれぞれ2~3種の製剤(錠剤)を用いた。主成分として、トリアゾラム、ゾピクロン、ゾルピデム酒石酸塩、エチゾラム、リルマザホン、ブロチゾラム、ロルメタゼパム、フルニトラゼパム、エスタゾラム、ニトラゼパム、ジアゼパム、クアゼパム、ペントバルビタールカルシウム、フェノバルビタール、スルピリド、ジフェンヒドラミン塩酸塩、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩、ヒドロキシジン塩酸塩を選択した。同一の成分を含有していても、賦形剤等の製造方法元が異なると、不正使用した際の溶解度・溶解時間に差が認められ、各薬剤間には、不正使用条件下では溶解度に顕著な差が認められる場合があることが明らかとなった。錠剤よりも、粉末にして溶解する方が溶解速度も速く、外見から薬剤混入が解り難いことが明らかであった。加えて、アルコール飲料を想定した溶媒では、お茶を想定したお湯に対する溶解度よりも、一般に溶解しやすい傾向が認められた。いずれの溶媒に対しても、賦形剤は溶解しないで残存する為、犯行に用いられる際には、着色された飲料が用いられる可能性が示唆された。
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