研究概要 |
本研究の目的は,1)脳の丁寧な摘出が可能となるよう水中摘出法による剖検用バケットを開発すること,2)氷酢酸添加法による比重調整を応用した脳浮遊固定装置を開発すること,および,3)これら1),2)の新手法が種々の脳組織染色法(免疫染色法を含む)に与える影響を詳しく考察すること,の3点である. 平成21年度の成果として,(1)氷酢酸量を抑え,希釈による固定遅延を防止するため,20%ホルマリン液を選択すべきであることがわかった.(2)20%ホルマリンに0.85%塩化ナトリウムを添加することにより,脳の腫大(通常10%内外のところが氷酢酸添加で20%近くになる)による重量増加を低下させることが可能であることが判明した.(3)全脳浮遊固定のために必要な固定液の比重は,1,021~1,031であり,この値は時間経過とともに増加する傾向がみられた.(4)氷酢酸添加により最も懸念される固定液の液性の変化については,[20%等張ホルマリン(NaCl添加)+氷酢酸:比重1,031]の固定液でもpH2.39であり,氷酢酸無添加20%等張ホルマリン(比重1,000ではpH3.61)であることから考えて,実際の組織染色性についても影響はほとんどなく,液性による影響は最小限度に抑えられる可能性が示唆された.(5)脳洗浄は,全脳のまま151の生理食塩水2回に浸漬することにより,脳割検査時の刺激性を著しく低減することが可能であった. これらの結果は,剖検時の全脳固定を容易とし,本研究の目的である「外傷例や乳児脳など脆弱脳の形態を忠実に保存すること」が日常的な設備と低廉な材料によって可能であることが示唆された.
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